古道具集めが一番の趣味である和尚さんが茶釜を買って寺に持ち帰る。 茶釜を見ると汚れていたので弟子の小僧さんに茶釜を磨くよう命じるが、洗っている途中に茶釜が痛がったので、和尚さんに報告する。 和尚さんは茶釜を水で満たし火に懸けたところ、何事もなかったので「雑念があるからだ」と小僧さんを叱る。 しかししばらくすると茶釜が熱さに耐え切れず動き出したので気味が悪くなった和尚さんはたまたま近くを通りかかった貧しい古道具屋に茶釜を売ることにする。 古道具屋はその夜奮発して鯛を買うが、食べようとしたところ鯛がなくなっていた。途方にくれる古道具屋だったが、茶釜を背負ったタヌキが「魚を食べたのは自分です」と白状する。 茶釜は仲間との化け比べで元に戻れなくなったタヌキが化けたものだった。同情した古道具屋はタヌキが元に戻れるまでの間家に泊めることにする。 タヌキはお礼に、綱渡りをする茶釜で見世物小屋を開くことを提案する。この考えは成功して古道具屋は豊かになり、タヌキも寂しい思いをしなくて済むようになったという恩返しの話である。 近年ではその後、古道具屋がタヌキを元の姿に戻す方法を模索するが、タヌキは化けたままで居続けた疲れから病にかかり、古道具屋の看病も虚しく元に戻れないまま死んでしまう。 悲しんだ古道具屋は茶釜を引き取った寺で和尚さんに全てを話してタヌキを供養してもらい、茶釜は寺の宝として安置されるという結末も存在する。 月岡芳年画『新形三十六怪撰』より「茂林寺の文福茶釜」。タヌキが僧に化けたという説に基いて描かれたもの。 茂林寺の伝説ではタヌキが守鶴という僧に化けて寺を守り、汲んでも尽きない茶を沸かしたとされている。