忍 野 八 海
忍野八海は八つの湧水池から成っている。昔、忍野村は「宇津湖」という湖であったが、
延暦時代に富士山が大噴火し、そのとき流れた溶岩流によって、湖は山中湖と忍野湖に分かれた。
忍野湖は富士五湖と関連する一つであったが、川の浸食や掘削等で枯れてしまい、その時残った富士山の伏流水の湧出口が池として残ったものである。
富士山に降り積もる雪解け水が、地下の不透水槽という溶岩の間で、約80年の歳月をかけてろ過された澄みきった水。
水車のある休憩施設の前は湧水が川になって流れ、多くの観光客で賑わっている

各池には案内板が立っている
御 釜 池

湧き出口は深く水の色も青藍色に見え、浅い底には綺麗な梅花藻が茂り、黄色い可憐な花を咲かせている
ニジマスが泳いでいる
むかし、この池のほとりにあった家に、年老いた父親と2人の美しい娘が住んでいた。
父親は百姓をし、娘たちは裁縫や洗濯をしていた。ある日、妹娘が洗濯をしていたところへ、
突然大蟇(ひきがえる)が1匹あらわれて、その娘を強引に水中に引き込んでしまった。
それを知った姉娘は、泣き叫んで近所の人たちの助けを求める一方、畑仕事に出ていた父親を呼んで、
妹娘の救出をはかったが、いつまでたっても娘はかえらず、いくら探してもその遺体は浮かんでこなかった。
それ以来、父親と姉娘は命ある限り、お釜池のほとりにある家にとどまって、不幸な妹娘のめい福を祈り続けたという。
八海めぐり第2番目の霊場として、祓難蛇竜王(ばつなんだりゅうおう)をまつり、
今はない石碑には「ふじの根のふもとの原にわきいづる 水は此の世のおかまなりけり」との和歌が刻まれていたといわれる。
昔し、ある家の花嫁が厳粛な結婚式の最中おならをした。その音がすごく大きかったので、つつみかくすことができず、
年若い初心な花嫁はこれを深く恥じて、結婚式の席にいたたまれず、すきを見て席をぬけ出し、銚子を抱いてこの池に身を投げた。
その後、花嫁の履いていた草履が池の水面に浮かんできた。そしてときおり美しい女の姿が、
生きているように池の底に映って見えることもあったといわれている。
この悲しい伝説がもととなり、今日では縁結びの池として伝えられている
八海めぐり第5番の霊場として八大竜王の一神、徳叉迦竜王(とくしゃかりゅうおう)をまつり、
石碑には「いまもなほわく池水に守神の すへの世うけてかはれるぞしる」との和歌が刻まれている
美しく神秘的であり、移り変わる四季に彩られた富士を水面に映し込んだ姿は、訪れた人々に、
水本来の姿と護るべき美しさをそっと訴えているようにも感じられます。
この池の湧水は、富士山の雪がとけて地下にしみ通って、ほこりっぽいこの世とはかかわりなく湧き出す水なので「清浄な霊水」と呼ばれ、
富士登山をする行者や道者たちはこの水でけがれを祓い、登山した。
また、この水を携えることにより無事登山することができると昔からの言い伝えがあり、堅く信じられてきた。
このようなことから、この池を別名精進池ともいった。